ソーリット。科学ではなく、魔法でも無く、神の力の基で成り立っている世界。
その世界が数十年前から狂い始めた。
最初に雨が現れ、竜巻が起き、嵐が断続的に起き、そして霧ができた。のちに1000の終演と呼ばれるその現象はのべ3年に及び1000に及ぶ災害をほぼ毎日のように繰り返していた。場所も時間も、いつどこで、どうやって発生するのかも一切不明だったその災害で、唯一規則性があるものが存在していた。
それは例外なく、いや、その後の本当の“地獄絵図”状態でも一切変わらなかった規則性。それは、寺院ないしは巫女と呼ばれる神に司る人たちの周辺には一切起きなかったのである。
そして、1000の終演は終わりを迎えたが、残ったのは規則性が存在していることを裏付ける結果のみだった。町は無惨にも破壊され、瓦礫ばかりが残っていてまともな建物は一軒も存在していなかったにも関わらず、寺院及び神社と呼ばれた神を司る建物のみが残っていた。その上、その建物の周辺ではあの悪夢の後遺症とも呼べる霧も存在していなかった。
──神の怒り
そう恐れられたのも仕方ないかもしれない。神を司る機関のみを残して全てが葬りさられた今、それだけが残る事実だったからである。
その後、霧や終演の再発を恐れた彼らは、寺院や神社に集落を作り出した。そして、それはやがて国となった。それぞれの寺院は力量と言うべきであろう範囲というものが決まっており、それに応じた大きさにまで成長していた。
それは時に「神官王朝」となったり、集落で収まったりしていたが、どちらにせよ絶対の力を持つことはできなかった。以前、霧の中は安全が保証されていなく、実際、魔物まで出るとの噂まで立っていた。
そして、つい数年前、彼らの中からとうとう死亡者が出てしまった。彼らは“外”の開拓の為に範囲外、いわゆる郊外に出ていた。その時、魔物に襲われたという。彼らの死体は数日たって範囲内に運ばれてきたときに初めて発見された。
しかし、彼らの死体はその魔物に襲われたとも思えないのにも関わらず、外傷はほとんど見られず、そして表情も安らかに眠っているようだったという。それでも、人々が魔物のせいにしたのには理由があった。
傷──いや、マーク、タトゥと言うべきか。なにかの紋章の様な丸いそれが首筋に例外無くあった。それは決して吸血鬼のそれや熱印のあれの様なものでは無く、まるでそこに型をして日焼けさせたような自然なトレードマークでもあった。
人々はそれを機に今まで断片的にでも行っていた交流、貿易をやめてしまった。それによって複数の集落が消滅した言われているが、その数は定かではない。一説には2桁──とも呼ばれるが、それどころではないであろう。3桁、それ以上かもしれないその集落は人影尽きた今でも霧の中で神社を残し……途絶えてしまっている。時間も、人も、そしてそこの空間さえも……。
そして、ここにも、貿易が途絶えたことにより、孤立して、まもなく消えそうな集落があった。町の中心に神社があり、神を祀(まつ)る。その名はパルテノン。何の偶然か我らが祀る神と同じ名の彼女は、いつもそこに祀られその集落を守っていた。そんな、神を祀るものとセットで存在する集落。そんな普通の存在に神である彼女はある気まぐれを起こす。
ある少女とともに。