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■日溜まりの席替え

「今日、席替えだよね。楽しみだよ」

「うんうん、私、雅くんの隣になりたいなぁ」

 色々な言葉が交わされている。そう、今日はクラスの一大イベント、席替えである。どこになるか、そして誰が隣近くなるかで、今後の明暗を分けるイベント。仲にはそれだけでうなぎ登り成績が上がったヤツや逆にどん底まで下がったヤツも居るらしいと言う、天と地をわける行事でもある。それだけあって、まだ朝のホームルームが始まっても居ないのに大分騒がしい。
 このクラスの席替え、もとい担任の緑川先生が行う席替えは担当授業始まってすぐに行われるのがセオリーである。しかも、今日は丁度、緑川先生が担当する理科があるのである。それが、1時間目にあるとなればこれだけ騒がしい理由も頷けよう。
 あともう1つ理由がある。それは2人の天才がうちのクラスに在籍していることである。1人は青葉輝月。まさに凜を形にしたような風貌で、口調は少々強めだが決して悪いことは言わない。青いロングヘアと横髪に付けた髪飾りが特徴で、クラスの殆どの男を魅了している。いや、クラスどころか、学園にもファンクラブがあるくらいだ。
 また、口数が少なく、ミステリアスな所がさらに人気を呼んでいるらしい。野郎だけでは無く、女にもファンは多いらしいが、そんなとこ興味ない。
 もう1人は高稲雅(たかいねみやび)で、俺の友人に当たる人物である。髪型は赤毛の無造作ヘア。まあ、言うまでも無く男で、確かにルックスも悪くない、むしろすごく良い男である。

「あれ〜、何上の空してるんだよ。さては、青葉ちゃんに惚れたな?」
 羽賀藍。それがこいつの名前である。読み方は「あい」では無く「あお」。実に女っぽい名前だが、女なのは名前だけでは無い。こいつ本人すら、性別がどっちだと聞いたとき、半数以上が女と答えたぐらい女に見える。実際、この俺すらも初めて見たときは女かと思ったくらいだ。
「なんだよ。俺は青葉になんか興味は無いって。第一、女のどこが良いんだよ」
「そんなこと言っちゃって。興味あるんでしょ。朝児も」
「そんなこと──」
「そうそう、朝児。ほら、俺に見たいにもっと女の子に目を付けられるようにならないと男が腐るぞ」
 いや、雅。それ、用法間違ってる。目を付けられたらただで済まない。
「第一、俺が女に興味が無いのはお前らも分かってるだろ。それはそれ、それ以上は無いよ」
「ああ、残念だなぁ。ほら、身近に女の子いるのに」
「理世の事か? 理世は論外だろ。第一、妹じゃないか。お前は近親相姦でもやらせる気か?」
「いやいや、みさきちゃんの事だよ。あれはあれで良いと思うんだけどなぁ」
「いや、アレも論外だ。第一、一緒にあるいているだけで消えるヤツのどこが良いんだ!」
「俺は良いと思うな。朝児。今時、あんな天然で可愛い娘なんて、都会で星見つけるよりも難しいぞ」
 俺は時々、こいつの感性はおかしいんではないかと思う。ルックスも、頭も俺よりは断然良いが、言葉使いだけは若干おかしいと思う。何より、ネタがローカルでコアである。
「そう、じゃあ、僕がお嫁さんに貰おうか?」
「なっ、何をいきなり」
「おっ、バージンロードか? それなら、俺は応援するぞ」
 いい加減にしてくれ…。
 俺にとって、席替えなんてどうでも良い代物であった。何せ、隣が誰になろうと俺には関係無い。この学校では前後には同じ性別が並ぶが、左右は違う性別になる。つまり、俺にとってはどこに並んだとしても、同等である。まあ、例外があるが。

 キーンコーンカーンコーン──
 ホームルームを開始するチャイムが鳴る。
 先生が入り、出席を取り始めた。どうやら、俺には退屈な一日になりそうだ。

  *

「さて、早速だが席替えを始めるぞ。自由──」
 その言葉を上げた瞬間、教室から感嘆の声が上がる。
「──にしたいところだが、何かと問題が出るのでいつも通りくじ引きだ」
 ピタッ──ざわざわ。同時にクラス中が一瞬停止した気がする。一瞬固まって、その後、エーッと叫んだやつも居たが、それ以外は至って平和だ。しかし、なんだか、さっきより、殺気が感じられるようになった気がする…。

「とりあえず、席は適当だ。こんな感じでやっていく」
 担任の緑川先生が緑色の黒板に席の見取り図を描き、数字を書いていく。そして、書き終わるとくじを引く箱をだして──
「窓側から並べ。指示があるまでくじを開けるなよ。開けたら、少なくともお前らの希望する席はやらないぞ」
 俺らが希望する席。つまりは、雅と青葉の隣や前後を示すのであろう。それを察した野郎どもや女子たちは急に大人しくなり、親に捨てられそうな子犬のようになった。
 さすが、茜木学園が誇る天才である。ま、ばかばかしいけど。

「沖野!沖野〜!」
「おいっ、お前の番だぞ! さっさと、引いてこい。あ、青葉の席だけは当てるなよ」
「そんなこと言われても…」
「沖野ッ! 早く来い」
 はい、今行きます。なんで待っててください。
 呼ばれた通りに俺は行く。箱は立方体の一面を丸く切ったもので、くじは祭りの出店で売っているくじにそっくりのものだった。
 とりあえず、3回かき回し、1番下にあったくじを取る。これからは運である。何より、青葉の隣にならないように。

「よし、開けて良いぞ」
 その号令とともに老若男女、クラスメイト全員が何かに取り憑かれたようにもの凄い勢いでくじを開けていく。そして、開けた瞬間、例外なく見る方向は──
──やはり、青葉と雅の方向だ。
 一方、その対象の青葉も雅も開け始めるが、何より遅い。雅はどうせ確信犯だろうが、青葉の方はもしかして天然なのか?
 ちなみに俺も開ける。21番。黒板と照らし合わせると、前から2番目。窓際から2番目の席である。まあ、標準的な位置であろう。

「高稲と青葉。お前ら何番だ」
 その言葉に反応するクラス。もうすでに名物だ。
「俺は18番です」
「私は7番だ」
 俺も安全な生活を送る為に追ってみる。雅は良いとして、とりあえず青葉だ。
 7番、7番、7番──
 しかし、追っていくが見つからない。あれ? どこだろうか。最後に1番窓側の列を追ってみると──

──あった。あったが──サイヤクノバショダッタ
 なんと、青葉の席は前から2番目。つまり、俺の隣である。コレはまずいと思った瞬間、しかしそれはもう遅かった。周りには明らかに殺気だった男達4名。
「ナンノヨウデショウカ?」
 結果は分かっていたが、どうしようもない。とりあえず、強ばった声で答え、逃げようと思ったが。
「キミィ、君なんか、輝月様に興味ない下民なんかにその席は立派すぎるんじゃないか? でもね。ここを変えることはできない。だからね。僕たちは決めたんだ。君を抹殺するってね!」
「ちょ、ちょっとまって。そんなのいつ決めたのんだよ?」
「さっきだ。アイコンタクトにより満場一致で決議された。担任様も了承済みだ」
 と、緑川先生を見てみる。先生は律儀に手を合わして、哀れな子羊のような目で見ている。
「あ〜あ。青葉ちゃんに文化委員の委員長にされた挙げ句、席も隣かぁ。もう、朝児おしまいだね。南無〜」
 そこも手を合わしてるんじゃない!
 こりゃあ、マジで刺身にされる。いや、刺身にされるならまだましかもしれない。下手したら、後世まで恨まれちまう。
 とりあえず、ここから逃げないとまずい。さてどうするか。
「……先生ごめんなさい!」
 一気に駆け出す。まずは机を飛び越え、黒板の方向へ。教室でのもっとも大きな盲点。それは黒板と先生の後ろにある空間である。丁度、この教室の場合、黒板の下に丁度良い空間があった。それを利用して上手く、教室から出た。

「しかし、俺たちの予想以上だったな。さすが、学園一のアイドルだな」
「そうだね。僕もあそこまでスゴイとは予測できなかったよ」
「ところで──なんで俺の隣はお前なんだ?」
「先生、僕を女の子と間違えたんじゃないかな」
「そうか、先生も大変だな」
「そうだね」

 今の状況はひどいものがある。残されたのは一部の女子と雅、藍の二人だけだった。先生は俺が通り道に使ったせいで、全治1週間の怪我を負ったとか。

 ちなみにその後、俺が変死体気味になった状態で発見されたのは言うまでもない。

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