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■ALPHA-GATE

イントロダクション
プロローグ
1/時間を超える機械
2/失敗とその成果
3/不明な世界
4/一人の少年
5/私に似た女
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■第5話 / 私に似た女

 階段の最後、突き当たりには、大きな扉があった。何度目になるんだろうか。タイプは今までと同じで、普通に押して開けるものだったが、何故か微妙に違和感ある。

 何コレ?

 その違和感の原因は見て明らかであった。そこには少しかすれた文字で、ローマ字の「MIDORIKAWA」と記してあった。ゴシック体のレリーフ。少し真ん中らへんがかすれてて読みにくいが、それは私の名字と同じものを指していた。さらにその後には文字が書いてあるが、何かは分からない。明らかに私の名前「ASAYA」では無いようだが、真ん中が「L」スペースはそれぐらいの領域は空いているようだ。

「みどりかわ……あと、Lね……」

 なんだろう。私と同名の名字。いや、名字ではないかもしれないが、少なくとも自分に何らかの関係があるようには思う。緑川なんて名字以外の何があるというのか? しかも、今回は塀に書いてあったような意味の分からない文字なんかではない。明らかに私たちの普段使っているアルファベットという形をした文字であった。

「また一つ、不思議が増えた訳ね」

 思わずつぶやいてしまう。そう、この世界は不思議だらけである。もう、そんな世界は飽き飽きだ。この扉の向こうにこの世界を知っている人がいる。そして、私自身に対しても何らかの形で影響してる人が──この中にいる。
 手に力を入れる。そして、扉に手を当てて、思いっきり押す。そうすると、やはり3度目も同じように扉は開き、扉は動いた。そして中には──

「あ〜あ、ここまで来ちゃったのね」

──女がいた。

 この赤黒い壁に対して違和感があるぐらいの白。その白に映えるようにある黒髪。中はベージュのセーターらしいものを着込んでいた。そう、その姿はもうおなじみの人物にそっくりだった。あまりにも身近な、24年間付き合った私という存在に。男だったら、単にデジャヴを感じただけかもしれない。
 コツコツコツと近づいてくる彼女。歩き方までそっくりだった。

「話は聞いてるわ。もとの世界に戻りたいんでしょ?」

 私が話しかけてきた。これが自分とするならば、私はこんな声をしているのかと思った。歳も近い訳だし、声優でもないんだからそんな行って帰ってくるような時間で声が変化するはずが無い。自分に似すぎている目の前の実像は私にはあまりにもショックが大きかった。

「えっ、そうだけど、話は聞いてるって……どこから? もしかして、あの子……?」
「違うわ。もっと前から私はあなたを知っている。それこそあなたよりもね」
「えっ──?」

 驚きのあまり、その後聞こうと思ってたことがぶっ飛んでしまった。
 何故。そして、お前はなんなんだ。そして、何故そこまで似ている。さすがの私でも同様を隠せず、言葉がカタコトになってしまう。そして、どうして私を私以上に私を何故、知り得るのか。
 言葉は出ず、今はすでに固まったままになってしまっていた。右手は腹のあたりの空中でハチドリのように静止している。もっとも、羽根は存在せず、完全に固まったままであったが。

「あら〜。ちょっと、混乱させすぎちゃったかしら。まあ、良いわ。まず、現実世界……ここで言うところの『ワールド』に戻りたいのよね」

 ワールド? 一応現実世界だから、私の世界?

「あ、う、え〜と、あなたが言っているワールドが、私が元いたところなら、そうなはずだけど」

 緊張はしていない。しかし、今私の手の中には、滝のような汗、次から次へと止めどなく流れていく。小川のようにと言うの言い過ぎかもしれないが、実際の話、手の平はすでに汗だくだったことは否定できない。何より驚き、腰を抜かしそうな私の必至の抵抗がこれっだった。平常心を保とうと交感神経が働きかけるが、その2倍以上の流れで副交感神経に押し流されている感じと言えば良いだろうか。

「あっ、まだ説明してなかったか……。『ワールド』っていうのは普通に時間が流れてる世界ね。あなたがちょっと前にいた世界のことね。それに対してここは『インフィニティーゼロ』。ここでは物質は変化はするけど、時間に変化は無いらしいわ。ちなみにここは『ワールド』の世界から見ると、四次元空間、私たちはストリームって呼んでるんだけど、その向側にいるのね」

 彼女もとい私は気づいたように説明始める。その顔はどこか得意げで私が生徒で向こうが先生であるかのようにも思えた。実際、私は教えて貰ってるんだから、あながち間違ってはいないが。
 というか、説明は良い。そんなこと、これから先、向こうの私が知ってるんだから、私だって知り得るハズだ。そんな、お説教じみたことは2年前で十分である。

「いや、説明は良いんで、帰る方法は……」
「あはははっ、ごめんね、私技術者だからついつい説明に念が入っちゃって。ここからが本当に本題。ストレートに言っちゃうと直に変える方法は無いのよ」
「はっ、はぁ?」

 な、なにー! てことは、元の世界にもどる方法は無いって言うのか! ま、まあ、ある程度は予測していたけど、さすがに直球で言われるとキツイものが…。

「そんな驚かなくても大丈夫よ。直に帰れない。一旦、違う世界を経由しないといけない。何故かと言うとこれまた色々な事が関わってくるんだけど、あなたが前にいた世界は今は違う世界、いわゆる『アナザーワールド』に上書きされてしまってるのよ。つまりはこの『アナザーワールド』という世界を終わらせないといけない。ただ、この世界はあなたたちがいた世界と違って有限だから安心して。あなたの生きているうちにその世界は終わってしまうハズだから。終わったらまた来ると良いわ」
「また、来るって……」

 正直無理な注文である。第一、ALPHA-GATEすらもどこにあるのかさっぱり分からない。さらには、全く知らない『アナザーワールド』と言う世界に行かなければなってしまった。ここで普通の物語なら仲間を集めて……なんてことができるんであろうが、目の前のヤツは明らかに無理だろうし、さっきいた男の子はさすがについては来てはくれないだろう。こいつはこいつなりの考えがあるんだろうか。

「あ、ちなみに終わる寸前に来なきゃダメよ。もし、終わっちゃったら消えちゃうからね」
「消える? よく分からないんですけど」
「ま、どっちにしろALPHA-GATEを使えってこと。ほら、向こうの部屋にあるからさっさと行きなさい」
「あっ? うっ? あっ!?」

 いつの間にか仁王立ちになっていた彼女の後ろの壁が二つに割れ、土埃を立てながら扉が開き始める。凶悪なぐらい規模の大きいロジックである。正直、こんなのつくってこれ以外に使う予定でもあったのか。披露宴でも開こうとしている勢いにも思えた。

 そして、私っぽいヤツは両手を広げ後ろに現れた大きな機械を背に──

「はい、これがALPHA-GATE。あなたが設計した地上最悪最凶の時空兵器がこれよ」

──と言った。

「……」

 何とも言い難い違和感があった。
 あんなに大きかったけ?
 確か、設計サイズは人間が入ってそのプラスでかなり余裕があった程度だった覚えがある。しかし、目の前にあるのは巨大ロボットとも張り合えるであろう軽く10mを超える大きさがあった。

「あぁ──」

 驚いている私をよそに次々と作業をしていく、私もどき。見ていると兵隊アリのようである。自分もここまで当時は働いていたのだろうか。
 しかし、大きい。私は少し遠くから見ているので、両端が見えるが、本人からは端を見るのすら難しいだろう。全く良くこんなに大きいものを作るものである。
 あ、発端と言えば私が原因か。

「で、一つ聞きたいんだけど、何故こんなに大きいの?」
「えっ、それは……」

 あ、口ごもった。
 同時に彼女の作業自体も止まった。完全な停止というべきか。キチッと固まってしまった。何か裏があるのだろうか。まさか、私の分からないところで何か仕込んであるんじゃ……。これを見てる限り、その可能性は否定できないけど。

「そんなこと良いの。さっさと乗って。早くしないと時間切れになるかも」
「え、どうして?」

 強引に通されてしまった。
 しかし、全く、意味不明だ。私はどんな状況でも条件がそろえられば行ける設計だったはず。時間なんて関係ないはずでは──

「だから、条件がそろわないとここに戻って来ちゃうのよ。ここは四次元空間のあちこちにある穴に落っこちると行けちゃうところなの。つまり、あんたがここに来たのもそのせい。あんたが、この事件の引き金なのよ。この世界全体を巻き込んだ事件のね! もう、分かってる?」
「あ、うん」
「じゃあ、さっさと乗った」
「はい」

 自分がどんどん押されてる感じがする。私によく似ているせいだろうか、それとも元々向こうの押しが強いからだろうか。私には後者に感じるが、そうとも言い切れない節がある。

 私たちはその巨大な機械に立てかけられたはしごのところまで向かう。どうやら、ここから入るらしい。しかし、近くで見るとより巨大なメカに見える。よくここまで作り上げたものだ。道具もロクなのが無いはずなのに──。

「ほらほら、早く乗って、スタートしちゃうよ」

 私は無言のまま乗り込む。
 もう、どうにでもなれ! ここの管理権はどうせ私にないのだから、それにこうなるのは私の運命だったのだと思いたい。つまりは私に──拒否権などないのだ。

「システムオールグリーン、スーパーレジスタードパワーインバータースタート」

 私が乗り込み、位置についた瞬間、そのかけ声が上がる。いわゆる電車などで行っているかけ声チェックをしているんだろう。
 さっきのかけ声と同時にエンジン音のような音がなり始めた。しかし、本体は決して揺れず、振動すら伝わらない。周りについては全く変化が無いままだ。

「電界制御システムオン、エンハンスドレグジウムコンバーターウォームアップ」

 次々と呼ばれていくシステム名。その中でいくつか「エンハンスド」が付いたものが呼ばれる。エンハンスドは「Enhanced」のことで強化されたものを示す。つまるところ改良版を示す言葉なのだが、その数に驚かされる。全46システムから成り立つALPHA-GATEのシステムのうちその約3分の1に当たる17システムにその名称が付けられてるというんだから、その作業を一人でやったというのはどれくらいの苦労なのだろうか。私には計り知れなかった。
 いつの間にか、半分の数のシステムが読まれる。すでに私の周りには、白以外の照明もつき始め、システムが半分稼働していることを思い知らされる。

「──」

 防音システムが働き音が聞こえなくなったようだ。ここからは孤独との戦いである。当然、さっきまで聞こえてきた地響きのような轟音も聞こえなくなり、ジェット機の離陸後のような気分になった。もっとも、私はジェット機なんて乗ったことなんてないんだけど。

 そして、周りが歪み始める。

「とうとう始まったか」

 独り言のように言ったその言葉もエコーとなり、さらにさざ波のようになって帰ってきた。照明自体も大きく歪み、まるで陽炎を悪夢で見ている感覚である。そして、これから先がにいやな感覚がくる。あの眠くなりながらも、思考がくしゃくしゃになる。麻薬中毒のような感覚。この度に私は思う。これが悪い悪夢なら早く起きてほしいと。

「ALPHA-GATE起動、転送スタート」

 私には聞こえないはずのその言葉が、私の耳に鳴り響いたような気がした。きっと、気のせいであろうが、その瞬間、私の思考はとぎれとぎれとなり、闇へと消えた──

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「ふう、OKみたいね」

 電力を得るために回転していたタービンが徐々に回転数を落としていく中、私は一人汗を拭いた。
 やり遂げたと言う達成感に酔いしれる。これで道通りに進めば、彼女はやってくれるだろう。何故かって、それは私の──なのだから。

「さて、次は私の──」

 ズゴォォォ──ン! ドガッァァァ──ン

 ものすごい音に驚いて後ろを見てみると、大きな白いカプセルが壁を貫いていた。

「あちゃ〜。いわんこっちゃ無い」
「何が、いわんこっちゃないよ。危うく死にかけたのよ。何が起きたか説明しなさい!」

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