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■ALPHA-GATE

イントロダクション
プロローグ
1/時間を超える機械
2/失敗とその成果
3/不明な世界
4/一人の少年
5/私に似た女
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■第1話 / 時間を超える機械

 私は廊下を歩いていた。理由は簡単だ。単に移動していたのだ。
 あの、悪魔の様なマシンのところへ・・・。

 その歩いている途中、不思議な会話を小耳に挟んだ。
 大の大人が自分はいやだ、だから誰かやれと責任逃れをしていた。
 良く聞くとその話の内容は私の仕事にもいささか関係あるようで、今度行われる実験のことと言う事が分かった。

―― くだらない。

 そう、思った。
 だって、そうだ。それ覚悟で今までやって来たのに、今更になってなんだっていうんだ。私だったらこんな状況に陥るんだったら、迷わず立候補している。自分が犠牲になって、科学が発展するんだったら、この体ぐらい容易いものだ。

ん?

「自分なら?」

 ああ、なんて簡単な答えだ。自分がやればいい。
 確かに、私は死んでしまうかも知れない。しかし、その屍はそれ以上に価値が見出せるモノではないのだろか。もちろん、成功する可能性が限りなくゼロに近いわけでもないと思う。ほぼ、五分五分と言っても良いぐらいではないだろうが?
 それを考えれていたら、居ても経っても居られなくなってきた。

―― この際だ。私の体、心までお前にくれてやろう。

 人間はこういうことをこんなに簡単に決められるものなのだろうか、何せ自分の命すらも掛かっている。自分が生きる上でもっとも重要なものと、人柱になるという意思を天秤にかけてでも、意思の方が勝ってしまう人が何人いるだろうか。
 何千人に一人、いや、何万人に一人居ないかも知れない。居たとしても、その殆どは自殺志願者か、人生に飽きてしまった人であろう。いや、現にここいる。科学の発展という、人類の課題に自分の命さえも、捨ててしまう覚悟いる私が。

―― スッ

 カードを取り出した。ここの職員にしか持てないIDカード。
 私が持っていたのは、「プリズムレベルカード」と呼ばれるカードだった。
 IDカードには権限によって、グリーン、ブルー、レッド、シルバー、ゴールド、プリズムが存在しており、プリズムレベルカードはその中でも最も高い権限を持つカードである。
 私はカードを持った右手を上に持ち上げ、端末に少し斜めにかざした。

「ピピピ。認証完了」

 機械的な電子音と同時に合成音声の認証完了のアナウンスが鳴る。

「プッシュ〜、シューゥイ」

 それと同時に前にある、白い無機質な金属の扉が横へスライドした。
 ドアが開き終わるころ、中の会議中の人物達は「何事だ?」という、顔をしながら、唖然としていた。
 私はここで言わなければいけないことがあるんだ。「私がやります」といわなければない無いんだ。
 焦りと心臓の鼓動だけが、ほとばしる自分の体を抑えるために大きく深呼吸をした後…

「私がやります! 私が今回の実験台になります!」

 大きな声で、泣き声に近いような叫び声でそう言った。
 人間とは必死の時にはここまで大きな声を出せるのかというぐらい、私でも驚くぐらいの必死さで、そして、力でそういった。

「ま、まあ…、まて、緑川君」

「いやです! 私は待てません! やると言ったらやるんです!」

「緑川君聞いてくれ! 確かに緑川君は勇気がある。この場で、自分から実験台になるといったのは、お前さんだけなんだからな。だが、それを認める訳にはいかないんだ!」

「そんなの、分かっていますよ! だから、こそ…。だからこそ、実験台になることを決めたんです」

 私は、そんなこと分かっていた。最初から止められることも、絶対に認めてもらえないことも、すべての原因は私にあるのだから。
 だからこそ、無残な死に方をしてしまった、あの実験台と使われてしまったサルの為にも、この責任を取らなければならない。私はそう決めたんだから、最後までそう、責任を取らないといないんだ。

 「だからなんで、緑川君…。いや、もうこの際これで良いな。このマシンを設計した、貴女が行かなければならないんだ!?」

 そう。私はこれを設計した人物。
 つまり、この危険性を一番分かっている、“設計者自身”,が、自らそれを証明せんとしているのだ。
 それは許せるはずがあるわけが無いのは当然である。
 何故ならば、もしこの実験で、本当に私が死んでしまったとしたら、誰も改良できないことになる。つまり、技術の進歩がここで止まってしまうのだ。
 過去にあった、ベータとVHSの戦争のように、技術者が有用な技術を移行しなかったために、採用されなかった技術のように・・・。

 それが構わない私と、それだと困る、開発者勢。

 私は所詮、利用されているものだ。これで失敗したら所詮、私の設計に欠陥があっただけ。そんな、欠陥のある設計図を書く技術者など、使えない技技術者と変わらない。もし、死んでしまったら、死んでしまったで良いじゃないか。

「私が技術者だからです。私は、あくまで自分の設計の腕を確かめたいんです。もし、死んでしまったら、私は所詮そこまでの女だったってことですね」

 少し、嘘が混ざっていたが、これで理由は正当化できる。
 まあ、出来ないときは、これを最後に手を引こう。これ以上やっても無駄だし。

「…。わかった。その熱意を認めよう。では、私と約束してくれないか?」
「必ず、成功させると」

「本当ですか! それなら、約束できます! ありがとうございます」

 私は、あまりの嬉しさに声のトーンが上がってしまった。
 でも、何でだろうか、もしかしたら、自分が死んでしまうかもしれない、実験なのに…。もしかしたら、100%絶対成功するとでも、心の中で思っているのかもしれない。

 まあ、そんなことないんだろうけど。

 でも、実際の話、わずかな希望はあった。
 というか、ほぼその点は出来るという自信があった。私の設計と計算が正しければ、ゾウレベルの大きさまでの大きさなら、問題なく、出来るはずである。
 ただし、問題はそれからであった。
 例え、重力制御が問題なく行っても、四次元空間という空間自体がどういうものなのか、全く分からない、パンドラの箱だからである。
 そんなの、やってみないとわからない。
 例え、それが、時間という軸を歪ませてしまうような代物でも、これをやることに意味があると、少なくとも私は思う。もし、そうであった場合には、科学の発展の為だと思って、割り切るしかないだろう。
 しかし、その場合は、実験結果を報告できないのは、非常につらい。何故なら、結果がなければ、科学の発展もへったくりもないからだ。なんせ、情報がない。情報がないということはどうにも出来ない。つまり、何も出来ないということになる。

 でも、それは所詮、「ソンナコト」だった。
 私は成功を確信している。いや、成功以外は信じられない。それこそ、私の設計なわけだから。自分でやって失敗でしただったら、カッコ悪くて死に切れないだろう。

――― 私は絶対に帰ってくる

 それが、今、実験室の前にいる、私の心境であり、私の決定事項。そして、運命なんだと心に言い聞かせた。
 覚悟を決めると、私はカードを取り出し、端末の上に被せた。

「緑川朝夜様ですね。お待ちしておりました」

 認証音と同時に合成音声とは違う、人間らしい声が聞こえてきた。と、それと同時に、私より少し大きい位だろうか、身長にして、約一七五センチメートル程度の白衣姿の男が現れた。
 男は、自分は秋葉洋介で、委員長の息子だと名乗った。委員長はよほど、私のことを大切な研究委員だと思っているらしい。それはそれでうれしいが、中には殆ど研究員は居なかったのは、ちょっと悲しかった。
 それは、私の研究開発成果が危険だと誰もが思っている結果だっだ。

「では、お願いします」

 そう言うと、私は身体を彼に任せた。

 装置の外見が日の目を浴びる。
 トンネルを、人間より少し大きいぐらいの大きさを小さくして、様々な機械を取り付けたような見た目をしており、周りには冷却装置であろう、大きなパイプとラジエーターのような装置が付いていた。
 自分が設計しておきながら、実際にこんな間近で見るのは初めてだった(自分が設計したとは言っても、設計図のみだ)。
しかも、自分が整備していたとは言っても、整備していたのはソフトウェアだけなのだ。
 前回の事故も、反重力の制御システムに問題があったため起きsた事故なので、一切機械側に問題があったわけではない。その為、あちら側は全く触っていないことになる。
 そんな、自分にとっては既知であり、未知の機械の前に私は立たされていた。

「すごいでしょう? これをあなたが設計したのですよ。そして、今から設計者のあなた自身が、あなたの作り出した未知の空間にほうりこまれるのです」

 なにやら意味深なことを言われた。
 確かに、今まで誰一人としてあそこには行ったことが無いのは事実だ。もちろん、実験はしているのだから、人意外なら行ったことがあるものもいるだろう。
 実はカメラも行ったことがある。

「緑川様? ぼうっとされていましたが、どうしました?」
「あぁ、大丈夫。ちょっと、考えごとをしてただけ」
「そうですか。では、そろそろ、時間なので、よろしくお願いします」
「わかりました」

 もう覚悟は出来ている。自分のものだから自身がある。

ゴサッ

 トンネル状の装置の中に寝そべって、目を閉じる。まるで、手術室へ向かうストレッチャーに乗っている患者の気分だった。
 中は暗く、目視用の赤暗い照明があるだけだった。もちろん、寝てるので足など見ることは不可能で、そもそも、固定されているので、首を動かすことも出来なかった。

「はじめますよ」

彼の感情の無い言葉の後に装置の電源が入れられる。

ヴィィィィ────ン
ゴォォォォォォォ────

 モーターが加速するような音と同時に低音の奇妙な音が聞こえる。その音とほぼ同時に重力にゆがみが出来ていることを感じる。というか、空間が揺らいでるの方が正解か…。
 ああ、もう眠たくなってきた。マズイな…最後まで見たかったのに…。どうしてだろう…。

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